夜のポタラ宮
ポタラ宮は昼間、中に入って見学することが出来る。
中も見所たくさんで素晴らしいが、夜のライトアップも幻想的で美しい。
この白い壁は牛乳と蜂蜜でできているとガイドが言っていた。
この夜、我々はゲストハウスから大通りを通って徒歩でポタラ宮まで出かけた。
街中でも荷物検査ゲートがあったが、問題なくパス。
夜は少し肌寒い。
街灯に照らされた石畳は濡れたように見える。
標高3700mの夜の寒さは、冬の寒さとはなんか違う気がする。
ポタラを眺めながら散歩していると、
物売りの少女が近づいてきた。
紐を編んで作る中国の飾りを売っているようだった。
一つ五元という。
別に高くもなんともないが、路上で近づいてくる子どもの相手をするのは気が引けた。
もう夜だし、どこでなにがあるか分からない。
しかし、
ハイハイ、買わないよ。
と適当にあしらってもペタペタ付いてくる。
荷物をすられるかも知れないと警戒しながらも、ちょっとだけ可愛いなと思い始めてきた。
母親と思しき人がベンチで座って何かしている。
母親が作って小さな娘に売らせているのだろうか。
小さな子供に売らせることで客の同情を誘い、物を買わせるという作戦は珍しいものではないだろう。
本当に売っているだけなのか、或いは販売と見せかけたスリが本業なのか、それとも別の詐欺の手口を持っているのかは分からない。
分からないから、私はお店や屋台以外で財布を出して物を買うことは絶対にしないようにしている。
中国人は路上の物乞いに恵みを与えているのをよくみるが、それは物乞いビジネスのケースが多く、「仕事だから」というよくわからない理由で金を恵んでいるらしい。
物乞いビジネスの話はまた別項でまとめたいと思う。
とにかく、ただの旅人である自分が
安全か安全じゃないかを見極める手段はほとんどないと思っている。
話しかけてくる人が皆善意をもっているわけではない。
ありとあらゆる手口で金を奪おうとしている輩も少なくない。
だから、トラブルを避けるためにも路上で知らない人とは口をきかないしお金も出さない。
自分の身を守るためにずっと貫いてきたことだったが、ポタラ宮の前でいつまでもペタペタ付いてくる女の子につい気が緩みそうになった。
でも自分の中で頑なに守ってきたこのルールは、既にそう簡単には解けないようになっていた。
買わないよ、と言いながらまっすぐ歩いていくうちに女の子は諦めて別の中国人観光客の方へ寄っていった。
しばらくして振り返ってみると、ひとりの中国人の女性がいくつか買ってあげていた。
「だって、こんな小さな女の子が売ってるんだよ」と話しているのが聞こえた。
なんだか急にその女の子が売っていた飾りが欲しくなって、
1つ五元ならお土産として結構コスパ良いんじゃないか、やっぱり買ってあげようかな、
と、もと来た道を少しだけ戻ったが
その子はもう居なくなっていた。